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サントリー美術館「BIOMBO」

こないだ腐したばかりの「東京の特別展」に性懲りもなく行って来た。
サントリー美術館はおそらく企画展のみでやっている美術館と思われるので、
特別展はヤダッ!と言っていては永遠に行けないのですな。

これは良かった。雰囲気も含めて。……トプカプ宮殿の秘宝ほど派手じゃないせいか、
客層が落ち着いている。「見る」ことに多少なりとも自覚的な人々。
トプカプ宮殿は何でもありな客層だったもんなあ。展覧会場で声高に喋るのはどうかと思うよ。

さて、BIOMBOとは何か。
これ、「屏風」のことなんですな。あえてBIOMBOと表記をしたのは、展示物の中に、
海外里帰り作品も含んでいることを踏まえてらしい。割合的にはそれほど多くはなかったが。
全体の7、8分の1程度か。それらはほとんどオランダ・ライデン国立民族学博物館からの貸与で、
江戸時代の交流の深さを思わせる。

展示の最初が、長谷川宗宅「柳橋水車図屏風」。目を惹かれた。
わたしは屏風系統はあまりちゃんと見たことがなく、そのせいかもしれないが、
自分が思っている屏風絵とはかなり違う。非常にマットな……一応、橋があって柳が生えており、
そこに水車があるという風景画のはずなんだけど、まったくの二次元。奥行き感全然なし。
橋と水車(と……籠?何だかわからない)が線画で描かれ、それが金で塗りつぶされている。
金が全体の60%ほど。金の面積を稼ぐための橋と籠、というイメージが強い。
ついでに言えば水車のデッサンが変で、稚拙。

しかし、その金を背景にした柳の葉の繊細さが美しい。
金部分は純粋な背景として描かれており、まったくのベタ金にしない為に、
モノの形をとっているということだろうか。
金部分と柳部分はまったく別の視点で描かれていると思う。
画家が描きたかったのは、風に揺れる柳の風情なのか。

もしそうだとすると……一枚の絵としてはどうだろう。
これは、う~~~~~~~~~ん、と唸った上で言うのだが、微妙に煩くないか。
微妙に。実に微妙に。
小指の先ほどのさじ加減で、煩くなっている気がする。左の柳も、右の柳も、もうほんの少しだが
大人しい金の上に描いた方が良かったのではないか。
……しかしよく考えてみれば、今現在、わたしは買って来た絵はがきを見ながら語っているのであって、
実物との乖離はけっこう大きいはずですな。絵はがきに文句をつけてもあまり意味はない。

 
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狩野甚之丞「帝鑑図屏風」
描かれているのは中国の邸宅(というより宮廷図か)。屋根の色使いがとても気に入った。カラフル。
細部まで丁寧に描かれていて、……丁寧に描かれていればそれだけで良いのかというと
また違うんだけど、わたしは好きだった。金色の雲の描き方も良かったな。
建物自体のデッサンがおかしいのはご愛嬌。

狩野勝川院雅信「鷹狩図屏風」
王朝小説の挿絵にしたいような、素直にきれいな絵。右隻が春の鷹狩、左隻が秋の鷹狩なのだけれども、
秋のあっさりした構図が好き。紅葉の木まできれいだ。欲しくなった。
これは最初から、オランダへの贈り物とするために制作した屏風らしい。ライデンからの里帰り。

東山魁夷「悠紀・主基地方風俗歌屏風」
天皇即位に伴って平成2年に制作された儀式のための屏風。
秋田の山の紅葉を描いているんだけど、わたしは東山魁夷の絵はあんまりいいと思うものはなくて、
この絵にも、存在がぼやけているような不満が残る。
唐招提寺の御影堂障壁画は(テレビで見ただけだが)素敵だと思ったのだけれどね。

しかし屏風って折れ曲がるものですが、その曲がる部分って本来どう処理するものなのだろうか。
この屏風、曲がる部分がおもいきり下地の色(しかも茶色の、ダンボールのような色)だったので、
紅葉の山の真ん中(?)に茶色の縦線が走っているわけ。……なんだかなあ、という感じ。
金屏風だと目立たないんだけど、これは自然の風景を映した、国褒めの屏風だから
金というわけにもいかないし。

伝原在中「白絵屏風」
白屏風とも言うらしいが、そういうものの存在を初めて知った。
源氏物語なんかで、出産の際に調度を全部白のものに変えるというのは出て来るが、
わたしは白一色だと思っていたよ。こういう風に白い絵を描いたものも使ったのか。
地が薄茶色、絵が白一色で描かれている。グリザイユを思い出した。

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