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◇ 高橋治「星の衣」

久々たっぷりした小説。ページ数的にもたっぷり600ページ弱。

非常に贅沢なことを言えば、話の肉部分のわずかなもっさり感が気になったが……
いや、でもここまで贅沢を言っちゃいけないだろうな。骨部分は非常にいい話でした。きれいな話。
沖縄を舞台に、伝統織物に懸命に取り組む女性二人を丁寧に素朴に描いていく。
沖縄好きで、伝統織物、焼き物に興味があり、芸事(?)ストーリーが好きなわたしにはツボで、
美味しいとこばっかりという小説。

高橋治は初めて読んだが、優しい話を書くね。登場人物はみないい人で、誠実に真摯に生きている。
織物のことを、かなりみっちりと書いてあるのも良い。ずいぶん下調べしたんだろうな。
さすがプロ、という仕事だ。知識的なところだけではなく、心情的な部分も……
実際に織物に携わっている人がどのように思っているかはわからないが、
少なくとも全くの門外漢にはさもありなん、と思えるように書いてある。
男性作家が女性を描く場合にときおり感じるクサミも今回はあまりなかった。

といっても、前述のもっさり感もそうだが、不自然さを感じる部分も(色恋場面を中心に)ないことはなく、
最後も多少ばたばたとヒロイン二人が出会い→星の衣→終幕となってしまうことに
違和感はあったのだが、何しろ好みの素材を気持ちよく料理してくれたので満足。
迷いなくもう何冊か読んでみようと思えた久々の作家。アリガタイことだ。

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この作品を読んで、最近自分の感受性が鈍ってきているというのが身に染みた。
登場人物たちが作品や風景の前に立ち尽くし、そこで味わっている感動。
……わたしにとっても、決して味わったことのない経験ではないはずなのに、ここしばらく
ご無沙汰しているような気がする。

感受性の研ぎ方というのは人それぞれだと思うが、わたしの場合は自然の中を一人で歩くこと。
歩くのは心と頭にいい。歩く速度は物を考えるのにふさわしい。
そして目に自然物を見ていると、日常で使っている回路とは別の部分が活性化される。
……わかってはいるのだが、これがなかなか。
面倒だったり、歩くのに適当な場所が思いつかなかったり。そういう意味では、なんといっても
旅が一番なんだけど、このところ出かけられてないしなあ。
円仁展や吉村作治のエジプト発掘展に「小粒」とか文句を言ってないで、自分側を何とかしないとね。
ひからびてしまう。

星の衣
星の衣

posted with amazlet on 07.08.17
高橋 治
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