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◇ 高野史緒「架空の王国」

道具立てはかなりわたしの好みなんだが、話としては今ひとつだなあ。
総合的にはやや不満が残る。

どうもひっかかるストーリー展開。細かい部分で納得させてくれないのだ。
その納得出来なさというのは、例えていえば、「虎」というタイトルの絵がどうしても虎に見えない、というような。
たとえそれが猫としてはそこそこの絵になっていたとしても、やっぱり印象は良くない。
わたしはこういう時、鷹揚に「まあタイトルが虎だから虎なんだろう」と思えないタイプで、
「いや猫にしか見えない」とこだわる方。

そもそも冒頭部分からして、もう少し設定を説明した方がいいような気がした。
主人公は日本からボーヴァル王国へ留学した(留学試験をこれから受ける)19歳の女の子なんだけど、
わたしは、なぜ彼女が留学先の教授にあれほど気にかけられているのかが最後まで納得出来なかった。
彼女が慕う分にはいいけどね。学者は著作を通じて敬愛されたり、ファンが出来たりするものですから。
しかしたかが留学候補生が、出会う前から教授に「われわれのルカ」なんて親しみをこめた渾名で呼ばれるかね?
「東京の超一流大学をたったの一年で退学して、うちの大学の特別枠にエントリーしてきた強者」
であることがその親しみの理由らしいけど、それだけではあれほど会うのを楽しみにしている理由には
ならんだろうと感じる。一応天才少女っていう設定らしいんだけど……
話の中で、頭の良さを感じる部分もなかったし。

初対面の人にこんな口の利き方をするの?とか、
まだ留学生の身分でさえない人間を、図書館の書庫に入れちゃうの?とか、
そういう細かい部分でノレないのがツライ。読み手全ての感覚を満足させる話を書くのも
不可能だと思うが、話運びが少し強引。ここがなあ……

枝葉を取り去ると、けっこう典型的なエンタメ展開、というのは前回の
「ムジカ・マキーナ」と似通う。今回はより一層――ちょっと恥ずかしくなるくらい少女マンガ。
何しろ最後は……メデタシメデタシですからねえ。今時探すのが難しいくらいのエンディングだ。
まあ、こういう話でバッドエンドにしてどーする、というものではありますので、
エンディング、あるいは少女マンガであること自体はいいと思いますけどね。

この人が本当に書きたいのは、薀蓄部分なんだろうなと思う。
ストーリーとかキャラクターとかは、ある程度どうでもいいのではないか。
薀蓄部分で現実とフィクションの混交を楽しむ。嘘八百を書く快感。
読むほうとしては、どっからどこまでが現実でどこが創作が探すのが大変だよ。
(しかしこの人の場合は、かなりしっかりした知識の上にそういう遊びを持ってくるので、
ゴマカシとしての現実とフィクションの混ぜ合わせだとは感じない。こういう遊び方は認める。
……が、“小栗虫太郎ばりの博覧強記”と紹介されるのは無理を感じる)

だからつまりね。基本的に好みは好みなんだ!ストーリーの雑さだけが問題なのであって。
それが上手くなだらかになった時、わりあい好きな作家になりそうなんだけどな、高野史緒。
ぜひ、もっと気持ちよく騙してくれタマエ。

……ただこの人は、おそらくストーリーテラーにはなれない人だとも感じる。

架空の王国
架空の王国

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