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<ユメ十夜>

うわ~~んっ!
夢十夜、大好きな話なのにぃぃっ!!それをなんでこんなクダラナイ作品にしてしまったのだっ!
やだよやだよやだよーっ。わたしの夢十夜を返せ~~~~~っ!

わたしはカナシイ。夢十夜の叙情性も、美しさもない。原作に対する愛情がカケラもない。
ただ単にモチーフとして、ほんのわずかな部分を食い散らかすように使っているだけ。
ああ、なんと無残な。目を背けたくなるほどだった。

いくら10分少々のオムニバスだからって、イメージだけで作っていいもんじゃないんだ!
予算が少なかろうと、時間が短かろうと、ちょちょっとそれらしく奇矯に味付けをして、
キッチュにつくりゃーそれでいいってもんじゃないんだ!
普段はなかなか出来ない、思い切り勝手な画面作りをしたくなる気持ちはわかる。
でも結局他人の視聴に耐えるのは、感性だけで作ったものではなく、頭で練り上げたものなんだよ。

オープニング。
しょっぱなから、いかにもありがちな安っぽい作り。素人まるだしの女優が出て来て、
何の面白みもない台詞を言う冒頭で、「こりゃヤバイ」感がありあり。
全く吟味して作った形跡なし。

第一夜。
なぜわざわざ内田百なんて持って来る?そんな小細工をして楽しいか?
時計の逆周りなんて、古今東西死ぬほど使われているじゃないか。そんな手垢のついた
常套句を引っ張ってきて楽しいか?後半から突如舞台装置になるのは何なの?
なんで小泉今日子、あんなに不気味にするの。わたしは漱石の女が好きで、
しかも第一夜の女が一番好きなのに!

第二夜。
これは原作にかなり忠実。わたしはこの映画に、この程度を期待していた。
久々に、うじきつよしを見てちょっと嬉しかったのだが、
あの人はなかなか味のある演技をするとは思うけれど、今回のこれは駄目だね。
特に後半に行くに従って、単にドタバタになってしまっている。
最初に多少なりとも漂っていた緊迫感が霧散しているではないか。
文字台詞も、前半は上手い使い方だと思ったけど、後半は惰性になっている。白黒は成功しているが。

第三夜。
これはどちらかといえばましな方だと思うんだけど、七地蔵のエピソードを入れて、
いじくったのが気に入らない。家庭→悪夢→家庭という流れはそれで良いから、
家庭の部分にホラーの味付けをするのは余計だ。平凡とホラーの対比になぜしなかったか。
背中の妖怪小僧の安っぽさには参りますな。あれ、布で隠して、顔を見せないようにしたほうが、
なんぼか怖かったと思うよ。作り物感全開の顔を見ては失笑するしかない。

第四夜。
わたしは山本耕史、けっこう好きなのだが。そんなに悪い役者ではないと思っているのだが。
でも今回のこれは……「お前は漱石じゃない」と言いたい。変。
だいたいさー。「漱石くん」ってなんだよー。無理がありすぎるやろー。
しかも「過去の子供に置いてかれる大人の図」ってありきたりすぎませんか?
話として全く見せどころがない。単に人間を動かして見せただけ。
ああ、でも路上に散らかされたオルガンとか学校机とか……あれはどこでロケをやったのか、
というのは気になった。角に、地味だけれども洋風味建築がありましたね。

第五夜。
……これはなー。学生の自主制作映画じゃないんだからさー。
あのモンスターはないだろ。子供が作ったみたいだよ。どんだけ予算がなかったんだよ。
話のループ具合はちょっと面白いけれども。でもあのモンスターと共演するのは
市川実日子がもったいない。宝のもちぐされに見える。

第六夜。
実はこれはいい。これは面白く見た。
ちゃんと組み立てて作っているし、監督は役者のテンションもきちんと整えてる。
こういう話で、わずかでも弛んだら見てられないですけど。他の監督の作品が弛みっぱなしだから、
松尾スズキを見直しちゃったりして……。
原作にも(ある意味で)かなり忠実。ねらいはシンプル。そして成功している。

第七夜。
これも……反則だけれども、作品としてはそこそこ練られている。
色、きれいだったね。
ただ、ここまで来ると夢十夜である必要は全くないというのが悲しいところだけれどね。
でも下手に食い散らかすよりはましかなあ。

第八夜。
これ嫌いだわー。第五夜と共に大嫌い。なんなの、あのデロデロは。
……ところで、この作品中に「第八夜なるもの」はありましたか?

第九夜。
旦那役が生真面目に描かれてさえいたら、原作に近い雰囲気を持つ
作品になっただろうに。なんでわざわざ崩すかね?
しかし緒川たまきはアップに堪え得る顔だ。ああいう、ほとんど動きのない表情のまま
長回しに堪えるっていうのは、なかなかすごいことではないかな。
中身の充実を感じさせる。

第十夜。
ナンセンス・ギャグ系としてはぎりぎり許せる。……が、豚丼の製造工程には素で参りました。
豚丼が食べられなくなるかもしれない。
本上まなみ、なかなか勇気のいる役を受けましたねえ。ちょっと尊敬する。
石坂浩二がなんでいるのか、存在意義に悩むところだ。

エンディング。
はいはい。そうかい。以上。

映画1時間50分を通して、見て良かったところ。
●なんといっても梅之助の表情。和尚のファーストシーンは文字台詞と相俟って、なかなかの効果。
●小泉今日子の「百年待っていて下さい」近辺部分の台詞は情味があって良かった。
 台詞だけね。わたしとしては、百合の女はもっと美人じゃないと駄目なのだ。
●市川実日子、乗馬実際にしてるよね?これは偉い。今度大河ドラマへ出してあげたい。
 彼女はいい役との出会いがあれば、けっこういけるのではないか。
 何しろあのモンスターと共演して、崩れずにいられるんだから。
 顔は今ひとつ好みではないのだが、ちょっと応援したくなる。
●運慶役の人のダンスはじっと見る価値があった。他の役者たちも。これは上手く作った。

この作品の中のほぼ全ての役柄に渡って言えることだけれど、10分少々のオムニバスでは、
役作りをするのは至難の業だ。監督はそこを自分自身がカバーするくらいじゃないと
駄目だと思うのに、けっこう役者にまかせっぱなし。
感性で作るのなら、一から十まで責任を持てといいたい。1ミリの隙なく役者を動かして見せろ。
短い作品ほど集中力が大事なのに。それが感じられない作品が多かった。

しかしこれを見て思ったよ。鈴木清順監督は、やはりなかなかの才能なのか、と。
この「ユメ十夜」だったら、鈴木清順に全部まとめて任せた方が、いいものが出来たと思うな。
彼は奇妙な味のものを作るけれど、少なくとも陳腐ではないし、考えて作っているし、
それなりに画はきれいだしね。

久々、金が勿体なかったと思った映画。
というか、映画自体が久々なのに、こんなものを見てしまって、がっかり。
前々からかなり楽しみにしていたのに……。
何かで口直しをしたいところなんだけど、他に見たいものもなく。
ああ、映画の当たり時期はいつ来るのか。

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