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篠田真由美「建築探偵桜井京介シリーズ」

1年半くらいかけて、最新刊「聖女の塔」まで読み終わった。
外伝を含めると16作目(本編としては12作目)。本編はあと3作、続くらしい。
なんのかんの言って16冊律儀に読んで来たんだから、「嫌い」とは言えないんだろうな。
だが、好きかって訊かれると……

主人公は(性格は偏屈だけれど)絶世の美青年。主役級に純真無垢な美少年。
誠実な筋肉系。江戸っ子な大学教授の美中年。ちょっと恥ずかしくなるくらい狙いすぎだよね。
まあ美形オンパレードの部分はいいとしよう。
キャラ萌え小説に重きを置きたくはないけれど、キャラクターは
小説の大きな要素ではある。(必須ではないけれどね)

が、最大の難点は……そこに漂う同人臭。
何が悲しくて、男が男を見つめて頬を赤らめなければならん?
まあ、赤らめるのは本人同士の自由ではあるけれど、それを読んでいる自分自身が非常にアホくさい。
こういうのは、現況で、売上にプラスなのだろうか。マイナスなのだろうか。
(そういうことを考えた上での同人臭ではない気がするが)
結局作者の「シュミ」全開で、こっちとしては……やれやれ、である。

「建築探偵」という基本コンセプトには実に食指が動くのになあ。
1作目を読み終わった時はけっこう感心したんだよ。「近年読んだミステリには
珍しいほど詰まった内容だ」と思った。建築、かなり真面目に書き込んでいるしね。
しかし3作目くらいになって、「もしかしてこれはBL風味か?」と気づく。(正直鈍い。)
がっかりした。篠田真由美、普通の友情で書いてくれれば、何の問題もなかったのに。

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しかしそれを除いてミステリとして良作かというと、実はそれも微妙ではある……

1作目と5作目は面白かった。2,3も悪くはなかった。後は……うーん、どうだろ。
書き込んで書き込んで、がんばっているのはよくわかるが、この密度がむしろ
作品を損なう方向に行っているのではないかという気がしてしょうがない。
ネタとか仕掛けを、もっとあっさり風味にしてみたらどうかね?
建築という要素メインでいいではないか。トラウマだの宗教だの現実に起こった事件だのを
あんまりごちゃごちゃと詰め込むから、今ひとつ品が無い感じ。
トリックも、けっこう裏の裏を設定したがりで、やりすぎ感がありありなんだなあ。
まあ好みの問題で、詰め込んだ方が好き、という人もいるだろうけど。

建築については、色々な場所を設定してくれるのは楽しみなのだが、
それに付随して薀蓄を語られるのは、場合によっては少々うるさい。
シリーズ4作目「灰色の砦」の時はフランク・ロイド・ライト関係のことを色々書いていたが、
ちょっと引き写し感が強かった。そこまでライトを説明しなくても済むストーリーだった気が。

昨今、薀蓄系統のミステリの人気が高いような気はしているけれど、
わたしはそれほど好きではない。小説を読んで知識が得られるというのは、多少のお得感は
あるにせよ、興味があることだったらそれについての本を読んだ方が早いしね。
(最近、北森鴻の「冬狐堂シリーズ」読み終わったが、あれくらいの薀蓄なら好感をもって読める。)

と、まあ色々文句を思いつきながら、でも16冊読んできたのは……
それなりに魅力を感じているからだろうな。
建築というキーワードと、それから……やっぱり美形キャラのゆえなのだろうか。
そう考えると我ながら非常に、なんだかなあ、という感じだ。
正直なところ、早く完結してもらって、読み終わってしまいたい気がする。

ただ、篠田真由美、「幻想建築術」なんかは同人臭もなく、なかなかまともな幻想物。
書き込んだがゆえの作品世界の狭さは相変わらず感じられるけれども。
こういう風に「シュミ」なく書いた方がいいのではないかと思うのだが。

聖女の塔
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