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◇ クーンツ「ベストセラー小説の書き方」

原題が「How to write best selling fiction」、まさにハウツー本。

正直言って、苦笑しながら読んだ。
まず一点、そのあまりの「アメリカン」な感じに。
自分への自信、物事についての断言、味気ないまでに実際的な視点。
多分に偏見だが、ああ、アメリカンやなあ……と思う。わたしが嘆息する類のもの。

もう一点が、「やはりクーンツ……」。これは決していい意味ではない。
なぜなら、わたしは今まで読んだクーンツの三作を、良い作品だとは感じないから。
読む分には楽しめるけれども、ワンパターンな部分が気になっている。
……そしてこの本を読むと、クーンツがワンパターンな理由がよくわかる。

そりゃなー。こういう公式に従って書いてれば、ワンパターンにもなるよなー。
本人にとっては作品から導き出される公式だから、原因と結果が逆なんだけど、でもこっちから見るとねえ。
まあ、一応これはこれでいいのだが。世の中いろんな話があっていいわけだし。
でも苦笑になるのは否めない。

クーンツの主張。「多数に読んでもらえなければ意味がない」。
……まあねー、そう言いたい気持ちもわかるんだけどね。
この本の中では、純文学系への反発がしばしば見られる。もちろん純文学系全部というわけではなくて、
「面白くないのに純文学でござい、とかっこつけただけのヘタレ物」(←かなり恣意的に要約)に
主に向けられるものなんだろうけど、どうも嫉視も混じっているように思えてなー。
(批評家などによって)エンタメ小説が不当に貶められている、とエンタメ作家自身が感じる状況は
日本でも外国でもあまり変わらないようだが。

わたしもどちらかというと、エンタメ小説を応援したい。どっちが上ってことないじゃないか、と
言いたいし、言うべきだとは思う。が、だからと言って、人気作=「良い物」かっていうとね。
(クーンツも完全にイコールであるとは言い切ってはいないけど、
価値のかなりを人気に置いているのは間違いない)

個人的な経験を言えば、売れた本でがっかりすることもまた多いからなー。
人気があるようだから、それなりに良い点があるはずだと信じてその本を覗いてみても、
「なんでこれが?」という本はあまりに多い。……って基本的にベストセラーを読まないわたしに
言い切る資格があるかどうかは定かではないが。

さらに、クーンツ自身がいう「一般小説とジャンル小説」の区別というのはどうなのか、とも感じた。
彼はフォローはしつつも、ジャンル小説は人間的な描き方が浅いというようなことを
言っていたような気がする。ジャンル小説というのは、この場合ミステリやSFといったもの。
で、書くのだったら一般小説の方がよろしいと。
「SF作家じゃなく作家と名乗れ」と。
そういう風に言うと、それはそのまま「文学とエンタメ」の話に被って来ないかね?
……と、疑問。それとも、それとこれとは別の話ということになるんだろうか。

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小説を区分けする基準について、わたしも時々考えたりはするが、結局のところ確実に分けられる線は、
自分の好きな小説
自分の嫌いな小説

しかないと思っている。
かなり乱暴な区分けだが、結局これだけが確かなもの。……ま、客観性は全くありませんがね。
客観的な価値や意味を一冊の本について定めることが出来るというのは、
不可能な話じゃないだろうか?それはある意味傲慢で、それほど意味のないことに思えるんだけど。
分析し、どんなに広く同意がなされていたとしても、読んだその人たった一人が
(そのたった一人が何人も何万人もいたりするわけだが)面白いと思わなければ、
その人にとっての価値はないわけで。

つまり、本は(その人にとって)面白ければいいのだ。

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