4.アイキャッチについて(多分前編)
数年前から、月に2、3回メディアテークの図書館を利用している。百数十回は利用していることになるが、
それでも行くたびに何となく感心している。これはなかなかすごいことだと思う。
普通は、飽きる――見慣れて感動がなくなるものではないか。
わたしが感心しているのはアイキャッチの宜しさだ。
動線のほぼ全てにわたって、目を楽しませるものがある。なので、歩いていて楽しいし、
決してスムーズとは言えない動線も結局は気にならない。
わたしが通るコースは判で押したように決まっているが、そのコースに従って、
アイキャッチを列挙してみよう。
北側の入り口(裏口に当たる)から入ると、まずカフェ・スペースを見下ろすことになる。
食事している客を何となく眺めつつ、スロープを降りて行くと、ショップのコーナーに突き当たる。
このショップはアーティスティックを売りにしていて(わたしの趣味とは合わないので、
特に熱心に見たりはしないけれども)、手前に並べられた雑誌や商品は何となく目に入って来る。
時々はちょっと興味を引かれることもあるので、立ち止まって手にとって見たりする。
区切られた空間にはなっていないので、店に入るという意識は全くない。
非常にささやかだが、空間的には密度の濃い部分だ。
ショップのスペースを過ぎると、1階のメイン施設であるオープンスクウェアのスペースにさしかかる。
(とは言っても、この建物はフロアにほとんど区切りがないので、常に全体が一見のうちにある)
ここはいつ通っても、ほとんど何かに使われていて、その多様性が興味深い。
趣味の発表会の展示スペースに使われることもあれば(フラワーアレジメントとか、写真展とか)
企業のPRイベントの会場になることもあり、各種学校の卒業制作発表の場になったり、
講演も行われれば、実験的なコンサート(映像と音を組み合わせるとか)の場になったりする。
無料だったり、有料だったり。入場券が必要だったり、なかったり。
「何でも来い!」という感じで良い。公的機関管理の建物では、催し物の色合いも
ある程度揃ってしまうイメージがあるが、ここは場所が場所なだけに、アート系の比率が多少高く、
ちょっと毛色の変わったものが多い。
入場してまで見ることはそれほどないが、横目で見ながら通りすぎるだけでも立派なアイキャッチになっている。
オープンスクウェアの横に設置されているエスカレーターを利用して上へと行く。
面白いのはこのエスカレーターの使い方だ。この建物の中で一番面白いのはここではないかと思う。
1階から2階へ向かうエスカレーターで、途中に踊り場があり――およそ3メートル四方――
乗りかえて折り返すようになっているのだが、
この踊り場が実に中途半端でなかなかいい。これを計算して作ったのなら、
伊東豊雄はかなり想像力豊かな人間で、ちょっとヘンな視点の人だ。
というのは、この踊り場からは、オープンスクウェアが俯瞰出来るんですね、ガラス越しに。
横から覗き込む形になる。入場料を取るイベントの時は、スクリーンで遮断されて
見えないこともあるけれど、まあほとんどの場合はそのまま。なので、準備の最中も見ることが出来る。
これはね。けっこう無いことだと思いますよ。
イベントはイベント本体のみが人目に触れる。普通は。
でもここでは、裏方段階も含めて――オープンスクウェアでの準備もそうだが、
実は舞台裏もこの踊り場からは見える。いや、舞台裏というのは言いすぎかな。
そこまで「裏」というわけではない。しかし、この間のフラワーアレンジメントのイベントでは、
来場者にお抹茶でも出そうという趣向だったらしく、その準備(ポットとかお茶碗とか
着物姿の男性とか)がこの舞台裏で行われていた。そのわらわらを上から覗く。
裏方段階を見て何か得する、ということはないが、――準備に余念がないスタッフの姿は、
なにがなし美しいものです。
そして、上から覗くというのもいい。覗きの快感と言ったら語弊があるだろうが、
自分は切り離された空間で、人がいろいろ動き回るのを見ている。しかも単なる群集ではなく、
一定の目的に沿って行動する人たち。うん、なかなかこういう機会は無い。
イベントの主催者側は、基本的に裏を見せたがらないものではないかとは思うのだが。
一体伊東豊雄はどうして、ここをガラスにしたんだろう。壁にすればそれだけの話なのに。
もちろんガラスにした場合と、壁にした場合、「アイキャッチ」という点からいけば、
雲泥の差ですが。そこは計算済みなんだろうか。
しかし何しろ裏側を見せるわけだから、美しくはない。
建築のデザインとして美しいとは言えない。それでもここをこうしたのはどうしてなのか。
本人に確認したい部分ではある。
コメント