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◆ 建築のあやうさ。

「建築MAP東京」という本を読んだ。(眺めた、というべきかもしれない)

建築MAP東京
建築MAP東京

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正直に言って、わたしにとっては「これこれ!」という本ではなかった。
取り上げたものが新しすぎた。読む前のイメージでは、もう少し時代的に幅があって、
解説部分ももっと詳しいものを想像していたので。読み物としては物足りないね。
しかしこの本は書名の通り「地図」なので、読み物を期待するのは、実はこちらが間違っている。
コンセプトは面白い。現代建築好き、あるいは建築科の学生さんなどには、非常に有り難い本だと思う。

※※※※※※※※※※※※

建築家って何なんでしょうねえ。現代建築を見ていると、時々思うわ。

芸術家であるなら、一番大事なのは「表現」。
主張。テーマ。建築としての文脈。そういうものを、建築を通じて表現していくこと。
職人なら、大事なのは顧客の満足だ。誰のための建物かといえば、
お金を払って、実際に使用するお客様。その満足のために心を砕く。

わたしは一番重要なのは、やっぱりお客さんの満足でしょー、と思いますよ。
だって使うのはお客さんだもの。お金も出すし、何年も何年も、共に生活していくのは建て主。
建築家は出来上がってしまえばそれでお終い。アフターケア、という部分もあるかもしれないが、
密着度は取るに足りない。

それなのにさー。こういう本に載るような現代建築って、
使う人のことを考えてる?って言いたくなる建物、ない?

先鋭的なデザインを見るたびに、使用感を尋ねてみたくなるわ。
この本の中で一番訊きたいのは、丹下健三が作った静岡新聞・静岡放送東京支社だっ。
これはねー、何と言ったらいいんでしょうねー、ああそうそう、椰子の木に5頭のブタが
しがみついているようなデザインですねー。椰子の木部分にエレベーターとかがあるらしい。
ブタ部分が居住空間。5頭のブタですから、それぞれが独立しているわけですねー。
……言葉で説明するのは難しい。実際の画像をどうぞ。

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いや、たしかに形は面白いよ。見る分には楽しい。……でもねえ。
空間の無駄遣いではないのか。安全基準を得るのに無理はなかったのか。動線に無理はないのか。
全体的に、対費用効果が著しく低いのではないか。
同じ金をかけるのなら空間は有効利用したいし、同じ安全基準ならかかる費用は少ないほどいい。

何より、動線を始めとする使い勝手のためなら、いくらお金をかけてもいいくらいのもんですよ。
使い勝手の悪い建物は、一文の価値もないじゃないですか。
どうなの?この建物は。……実はすごく使いやすい建物だったとしたら丹下さんに
あやまらなきゃなりませんが、見た感じどうしたって……。
だってこんな隙間あけるくらいなら、そこに収納スペースでも作った方がよっぽど気が利いてるし!!
普通の四角い箱型の方が、どう考えたって構造的に強いでしょ?
不安定な形を安定させるためには余計なお金がかかるもんです。
その金は、単に(建築家の個人的な)概念に支払われているんですよ。ああ、勿体ない。

大事なのって概念なんですか?まあたしかに、建て主が賛成した建物なら、
その時点で建て主も共犯なんだけれども……。
でも素人は、実際使ってみてからじゃないとわかりませんからねえ。
個人住宅を建てた建築家が、その家に行くたびに建て主の子供たちに石を投げられる、という
話を聞いたことがあります。
オトナは石は投げないだろうけど。でもやっぱりそんなことではいけませんよね。

わたしが、ここまで声高に叫ぶのは、「アホか!」というしかない現代建築の典型を
よく知っているからでありまして……。ほんとに腹立たしい。
原広司設計の宮城県図書館は、実に実に建築家の自己満足でしかない「アホか!」な建物です。
欠陥建築。こんなのに多額の税金が使われたかと思うと、泣けてきます。
図書館のなんたるかが全くわかっていない。設計者は実際に使ってみて、
いかにひどいかを体感してみればいいのだ。

しかしそれに対して、同じ現代建築でも、伊東豊雄が作った仙台メディアテークは気に入ってます。
わたしはあまり、鉄!ガラス!未来派!というデザインは好きではないのだが……
なので、完成当時は「なんだ、こじゃれたデザインにすればいいかと思って」と
かなり偏見をもって眺めた記憶があります。でも月に二度、きちんきちんと通ううちに、
「なかなかいいじゃん」と思えてきたのだから、やっぱり使い勝手ってのは大事ですよ。

建築家のみなさん、これから建築家を目指す学生のみなさん。
どうか「実際に使う人」のために設計をして下さい。一度建てたらそう簡単にやり直しが
出来ないのが建築です。決して独りよがりにならないように、概念だけで建物を建てないように。
独りよがりの建物は、建物ではなくて、モニュメントです。
建物は、中で人が快適に過ごせてこそのもの。

ちなみに最近気になっているのは、吉村順三と、中村好文。
といっても、これから本を読んでみようかと思っている段階なのですが。
上記二人と違って、個人住宅の設計が多いらしい。
どちらも知ったきっかけはテレビ番組で、彼らが設計した個人住宅は、なかなか居心地が
良さそうに見えたんですよね。ちなみに、二人は師弟関係にあるようです。

意中の建築 上巻
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住宅巡礼
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中村好文のこの2冊は読んだけれども、面白かった。
テレビで見るとちょっと偏屈な感じだが、文章はカワイイ人(?)っぽい。

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