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◇ 山尾悠子「仮面物語」

これは「実体のある幻想」を描いた本。

何ヶ月か前に、「山尾悠子作品集成」という本
http://blog.goo.ne.jp/uraraka-umeko/e/94eb868a7381f50cebdc20738ca4585f
を読んで感銘を受けた。その後、同じ作者による「ラピスラズリ」を読んだ。これは可も不可もなし。
3冊目として「仮面物語」。これは「集成」とは違う意味で、読んで唸った。

空中楼閣を描いて、ここまで確かさがあるのはどうしてなのか。

「集成」でも言葉はしっかりと繋げられていた。普通の言葉を連ねて幻想を描くのに感心した。
ただ、あの時は「確かさ」はあまり感じなかった。言葉自体の確かさは別として。
もっともそこでは、描かれたのがガラス細工のようなものだったので、
実体よりは、輝きを感じることの方が自然だっただろうとも思う。

ちなみに、この「仮面物語」は「集成」に収録されている「ゴーレム」という短編が
長編に育ったもので、モチーフは同じ。手元にないので比較が出来ないが、
前半の、重なる部分は言い回しなどもあまり変わってないような気がする。

「集成」に詰まっていたきらびやかな世界は、ここでは影を潜めている。
じっくりと、静かに、世界が語られていく。その世界には、入っていけるような奥行きがある。
一般的な幻想小説を二次元的だとするなら、三次元の確かさ。
二次元の(つまり絵のような)派手さとか鮮やかさも幻想小説の美点だと思うけれど、
三次元としてある幻想には、実体感がある。

やはり言葉の力か。空中楼閣を実体化させるのは。
言葉の繋がり具合があまりにもしっかりしているので、読みながら、船の繋留索のような
極太のロープをイメージしていた。この太いロープなら……吊り下げてるのか
持ち上げてるのか知らないが、世界を支えることも可能だろう。
押しても引いても、びくともしない。手を伸ばせば触ることも出来そうなほど。
この世界は確かだ。この確かさがすごい。

しかし実は、ストーリーの部分では、わたしは足元を見失ってしまった。
16章あるうちの、5章までは非常にクリアに世界が見えていたのだけれども、
6章あたりで迷子になり始めた。これはわたしの理解能力の問題だろうか。
それとも筆者が勢いに任せて”跳んで”しまったのだろうか。まあどっちであろうと大事ないけど。
ストーリーが把握出来なくなっても、それだけでつまらなくなってしまう話ではないから。
自分のいる場所がわからなくても、景色が美しければそれを楽しめるのと同じ。

この本は欲しいなー、と思ったのだが、1980年発行、980円の本が
今はネット上の古本屋で7000円。……まあ、復刻したからといってベストセラーには
ならない本だと思うが、出版社はこういうのを出して欲しいよなー。
復刊コムに行ってみよう。

ところでこの本の解説を書いているのは荒巻義雄という人。しかし、これはどーかねー。
いや、読んだことはない。それで言うのもなんだが……しかし架空戦記もので売ってる人に、
山尾悠子の解説をさせるというのは無理がないか……。
ま、これはわたしの偏見だし、一般化していはいけないと思うけれども、実際、この解説はつまらん。
他人の感性の部分にケチをつけてもしょうがないが、ダリはねーだろ!と思う。
せめてキリコ……いや、キリコだってそう嵌るとは思わない。
でもダリをひっぱってきちゃなー。ヤダ。他に誰か書く人はいなかったのか。

ラピスラズリ
ラピスラズリ

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残念ながら仮面物語は絶版。

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