【アンビバレントな。】
しゃくり上げそうになるのを、全力を挙げて阻止した。ここまで泣いたのは久々。
が、好きな映画か、と言われるとそうでもない。
でも、いい映画だ、とは言える。
しかし、再び見るかというと、多分見ない。自分の心に痛い。
こういう映画は、若者が見たとしたら「ふーん、それで?」と思うタイプなんだろうなあ。
実際、劇場の顔ぶれはかなりの線でオバサマが多かった。
ずっと、田中裕子をいい女優だと思ってて、でもちゃんと映画で見たことがなかったので、
一度見たかった。岸部一徳も嫌いじゃないし、香川照之もいい役者だと思うし。
ただ、話が自分の好みよりも湿っぽいか、と思って多少腰が引けていた。
じとじとの話は本でも映画でも苦手でね。
見終わって、やはりちょっと粘度が高かったかなー……
一本の映画として、当然話に濃淡があるんだけど、「濃い」部分は苦手だった。
特に後半は(妻の死の後は)、ああするしかなかったかもな、と思いつつ、
前半の淡々とした話運びのままいって欲しかったような気も。
対比を見せたかったのはわかるんだけど。
前半も、間がちょっと長い……。わたしの好みよりも。
「余韻」をあまりにも狙いすぎているように感じて、わずかにわずらわしかった。
丁寧に撮っているからこそ、ほんとにささいな、リアリティの欠如が気になった。
ほんとにささいな部分。なぜ渡辺美佐子は牛乳を受け取るだけで、空き瓶を返さないのか?とか、
夫が勤めて、妻が重病な一戸建てに、鉢物の世話をする余力があるだろうか?とか。
それと、看護婦と若い店員の動きが演劇部みたいだった。不自然な動き。あれはどうかと思う。
が、俳優はおしなべて良かった。滋味のある役になっていましたね、みんな。
牛乳配達店のおじいさんなんかも。
田中裕子、体力ありますねえ。頭が下がります。地についた演技だよなー。
年配のスーパーの店員の女優さんも、必要以上にイヤラシクなくて、好感が持てた。
渡辺美佐子も良かった。
が、岸部一徳からは田中裕子への愛情をあまり感じず、そこが残念。淡々部分は良かったが。
田中裕子の「見ます!」「家でやって下さい」には、思わず「かっけー」と呟いてしまった。
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「本でも読みます」……この最後の台詞はどういう意味なのだろう。
普段は「わからなかったらわからなかったでいい」と思うタイプなのだが、今回はちょっと考えてみた。
……今までは読書をして来なかったのか?と最初考えた。もちろん、昔から本が好きだった
という描写は出て来るし、実際今も「カラマーゾフの兄弟」なんて読んでいる。
だが、それは「本当の読書」とは違うものだったのでは?ここまでが第一段階。
本当の読書ではない、としたら。……最初はこう思った。
槐多が常に頭にあっての読書は、「暇つぶし」であって、本当に本と向き合っていなかったのでは。
ここまでが第二段階。悪くはないけどあまりピンと来ない。
ここで思い出す、「新聞の切り抜き」シーン。あれは興味を引かれた本の広告だ。
でも次のシーンに、違和感があった。どうして箱いっぱいにそれが溜まっているんだろう?
普通、買ったり注文したら捨てるなり、とっておくにしても、別の箱に移すなりするはず。
本棚には本がいっぱいある。が、実はこのラインナップに新しい本はないのではないか?
昔読まれた本の色合い。これには覚えがある。叔父の蔵書はこんな匂いを発していた。
病気で、ずっと外に出ることが出来ず、新しい本が増えることがなかった叔父の本棚。
本好きの癖というべきもので、カメラが本をなめた時、タイトルを読もうと努力した。
今ひとつピントがあっていなかったので、はっきりタイトルが読めたのがあまりなかったけど。
でも多分、この映画の舞台が平成16年、17年でいいのなら、3、40年くらい前の本。
きっと、田中裕子の時間はそこで止まっているのだ。
「あの頃」の本に囲まれ、それを何度も読み返して、そこで生きている。今までずっと。
「本でも読みます」は、「これからは新しく出る本も読みます」という意味ではないか。
つまり、自分の時間を動かします、という宣言なのではないか。
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話の主題ではないけれど、ネグレクトの部分も身につまされた。わたしたちは簡単に、
「そうなる前に、保護してあげることとか出来なかったのかね」と
ニュースなどを見て言うけれども、やはりそんなに簡単なことではないんだ。
児童を保護する、ということは、あれだけ物々しい、手続きも実行も大仰なものなんだ。
市の担当者の意見でも、なかなか通らないほど。
全体的に、伏線がうまく活きてる。パズルのようにはまっている。
ところどころにある、ふっと可笑しい部分も良かった。槐多の俳句はみな可笑しかった。
可笑しい、というか、ぽかりとした味が良かったのは、「50から85まで……長いですか?」の部分。
他にも良かったところ色々あるけど(気に食わないところも色々あるけど)、
そろそろいい加減切り上げましょう。
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